ワークライフバランスインタビュー

「病児保育で社会を変える」
第9回
NPO法人 フローレンス代表理事
駒崎 弘樹さん
「社会を変える」を仕事にする―社会起業家という生き方(英治出版)
ITベンチャー経営者。それが著者・駒崎弘樹の学生時代の肩書きだった。
NPOの道を選び、東京の下町で「病児保育サービス」を始動。
「僕のような門外漢のド素人によって東京の下町で始まったモデルが、政策化され、似たような事業が全国に広がっていったのだ。『社会を変える』ことは絵空事ではないはずだ。」
『社会を変える』を仕事にできる時代を、僕たちは迎えている。
フローレンス支援者様からの励まし - 『さらに強まる使命感』
- 高橋:
- 立ち上げられてから今まで忘れられないエピソードはありますか。
- 駒崎:
- あるお客様との出来事があります。
 僕たちは月会費といって利用者様からお金をお支払いただくのですが、その月会費が妙に多い利用者様がいました。
 間違って振り込まれたたのだと僕は思って、「10万円多くお振込みされておりますよ。」と連絡をしたんです。
 すると「それは間違っているのではなくて私の心なのです。寄付させてください。」と。
 ビックリして理由をお聞きすると、その利用者様は現在フリーの皮膚科医で以前は大きな病院に勤めていたそうで。 お子様ができても仕事を続けようと思っていたら、ある日上司医者からいつ仕事を辞めるのかと言われ、こどもが熱を出したときに手術があった時には「親なら休むべきだ」と言われたりと、大変ご苦労されたそうなんです。
 実際その利用者様は自身が病児保育を立ち上げる行動までをも試みたそうですが、うまくいかなかったということでした。
 そんな折に若い僕がその病児保育を立ち上げたことを知りさっそく利用会員に。単にサービスを利用するだけでなく参画・支援をしたいと思われてお振込みを多く下さったとのことでした。
 このようなうれしい経験はとても印象に残ります。
- 高橋:
- 私も病児保育は社会の中に本当に必要なサービスだと思います。
 現代の子どもを取り巻く環境の中では特に。駒崎さんが社会のインフラになっていかなければいけないという使命感の中で、 利用者様からご利用いただくだけでなく支援の体制までをいただけるなんて本当にすばらしいですね。
- 駒崎:
- 僕はそういう方たちの支援をいただき、使命感がさらに強まっている感じです。 日々「やらなきゃいかんっ!」の想いが強くなってきています。 利用者様から「これがあったお陰で第3子を産もうと思いました」とか、「非正規雇用から正社員になれました」など喜びのお声や感謝の言葉をいただく時は本当にうれしいですね。
- 高橋:
- ベアーズもがんばります!
事業としてのNPO

- 高橋:
- ところでその一方で、課題点や実際の現場などで困る事などはおありですか。
- 駒崎:
- 多々あります。日々戦いですね(笑)
 NPO(特定非営利活動)法人がサービスを行っているということです。日本ではめずらしいことですので。
- 高橋:
- そうですね。成功事例も少ないとお聞きしますが。
- 駒崎:
- そうなんです。それが故に「NPOってボランティアではないの?」という誤解が未だにあります。
 無料サービスのイメージでお問合せいただいたくお客様がいらっしゃいまして。 NPOなのにビジネスをして本当は金儲け主義者なのではといわれのない批判をいただく時もあります。
 自分たちとしては社会にとっていいことをしようと思って頑張っているにも関わらず、それがあたかも悪として捉えられ揶揄されてしまう事があり、精神的に参ってしまう時も・・・。
- 高橋:
- そうですか。
 そんな時こそ駒崎さんならではの「やらなきゃいかん節」で踏ん張っていただきたいですね。
 フローレンスさんの活動は社会を変えていける要素をたくさん持っていると思います。だからこそNPOにされたと思うのですが、企業として設立しなかったのには何か意図がおありなんですか。
- 駒崎:
- 僕は社会的課題があったら自分たちで解決しようという気概と手段を持つべきと思うのです。
 日本では、NPOの社会への影響力はまだまだ小さなものです。これは将来10年後を見据えると非常に大きな損失です。 そんな状況を変えたいと思いまして。
 世界のNPO法人のお話をさせていただくと、欧米諸国ではサービスを行うNPOが多く存在します。 NPOでありながら何十億の予算を持っていることも一般的です。NPOが政府を支え補完し市民が世の中を変えるということが当然のように行われています。 それがある意味グローバルスタンダードとも言えます。
 だからこそ、NPOというあえて険しい道を選んだというのがありますね。日本のNPOでも立派に事業ができ、社会的インフラになれるんだという成功事例になりたいですね。僕たちがロールモデルになり、社会に新しい流れを作れれば嬉しいです。
- 高橋:
- フローレンスさんもベアーズも“社会と共に歩む”、もしくは生き方や子育てにおいて社会の一歩先に行って、社会のこれからの道をご用意するという使命を持っていると思います。
 この度、私たちベアーズとフローレンスさんとの業務提携により、さらに社会のお役に立てるようになります。企業とNPOが業務提携をすることになりました。それについて期待されることはどんなことでしょうか。
- 駒崎:
- 子育ての支援とは多様であっていいと思うのです。その一つがベアーズの家事支援でもあるはず。うちの利用者様は普段はハードな生活を送っていらっしゃいます。
 部屋が汚れてしまっていたり、片付けたい気持ちはあるけれどそれをする時間がない等そういった時に家事支援を受けられたらどんなに気が楽になるかと思います。
 多様な支援、いろんな助けの手が折り重なる中で子育て支援の土台ができあがるのだと思います。僕たちの病児保育と、ベアーズさんの家事代行とが連携すること その支援の手の折り重なりになれるはず。
 企業とNPOの業界組織を超えた連携サービス(※注②)が社会で喜ばれてご利用いただける支援の一歩なのではないかと思います。
- 高橋:
- 私たちで子育て支援をもりあげていきたいです。
- 駒崎:
- 私たちの提携が業界を超えた取り組みの先駆けとなって、いろんな所で手を取り合って、働く親御さんを支援していくという、ひとつの流れを作りたいですね。
- 高橋:
- そうですね。
 私たちのサービスのハーモニーが枠を超えた社会の新しいインフラになるといいですよね。
- 注②:
- 企業とNPOの連携について =営利組織である企業と非営利組織であるNPOが連携すること。
 組織のあり方は違えど、企業とNPOが手をつなぐことでさまざまなことが可能になり、社会貢献活動の展開ができる。
 
						 
					



