バースセンス研究所 所長 大葉 ナナコさん【その2】

対談
FacebookTwitterHatena

ワークライフバランスインタビュー

大葉 ナナコさん

「しあわせな出産を増やしたい」

15

バースセンス研究所 所長
大葉 ナナコさん

バースコーディネーターは、“自分自身を愛する気持ち”をサポートする仕事

高橋
バースコーディネーターは、“自分自身を愛する気持ち”をサポートする仕事大葉さんが今のお仕事を始められたのは97年。ベアーズも99年に立ち上げたので時期としてはほとんど同じですよね。この約10年、大葉さんはずっとメッセンジャーであり続けたと思うのですが、やはり時代のニーズがそうさせたという実感はありませんか?
私自身そう思っていて、これまでなかった新たな文化を、なぜ創り出していこうと思ったかというと、家事代行サービスによって、【生みやすく育てやすい環境】を作りたかったから。いのちを慈しみ、自分自身をもっと愛してほしいという考えは、大葉さんと共通していると思います。この約10年、社会の価値観ってどう変わってきたと思われますか?
大葉
そうですね、やはり少し前は、女性に対して社会全体が画一的な価値観を持っていたと思います。早く結婚をして、いい母親になって、いい育児をするべき、と「ベキベキいい子ちゃん」(笑)が求められ、女性たちも他者の目線を気にしてしまいがちでしたね。親御さんにそういわれている女性が多くて、妊娠前の女性を対象にした授業では、親世代との価値観の違いに苦しんでらっしゃる女性を多くお見受けしました。そんな姿を見ていたので、バースコーディネーターの仕事には、各自が自分自身で見通しを立てていくカウンセリング的な要素を加えました。
「これが私なんだ、これが私のペースなんだ」という自己受容をすることは大切ですし、それを他人に受け入れられてはじめて、ありのままの自分で生きられるんだと思う。
今後は、女性が真の自分らしさを愛しながら、子どもや家族を愛し、人生を楽しむことができる時代になればいいと思っています。
高橋
私も多くの女性と接する機会があるのですが、“元気”ということを、単純にポジティブシンキングであるとか、何ごとにも強い意志をもっているとか、そう考えている人がまだまだ多いように感じます。
じつはベアーズは創業以来9年間、“がんばる女性を応援します”というスローガンできたのですが、10年目にガラリと変えたんです。“がんばる”って、これからの時代にはナンセンスじゃないかと思って。今度は“女性の愛する心を応援します”を新スローガンにしました。女性が、たとえば花を見て素敵、と思うような気持ちが最近は弱くなってきているように思うんですよね。“慈しむ、愛しむという感情”を、社会全体が作っていかなきゃいけないと思っています。
大葉
そう、大賛成! 自分を愛する心を応援するのは、私も同じです。偏った自己中心的な自尊心ではなく、自分を赦す自己受容という意味でです。自己否定より自己受容できているほど他者からも認められるし、親が自己受容できていれば、子供をありのままに受け入れることができる。女性にとって子育ては大切な「未来人育て」という人生の仕事です。人生80年=30000日しかなくて、そのうちわずか8000日しか子供と一緒にいられないんですよ。それを考えたら、あとで「あのときにこうしておけばよかった」と思わないように、子供との日々を大切にしようと思うはずです。

バースコーディネーターの資格を得るには

高橋
バースコーディネーターの方は、いま何人いらっしゃるのですか?どうすればなれるのですか?
大葉
詳しくご説明すると、バースコーディネーターと誕生学アドバイザーという資格に分かれていまして、誕生学アドバイザーの入門科、基礎科、専科、研究科とステップがあり、いのちの授業やセルフケア指導の対象者が、子ども・産後女性・妊娠準備中の女性・妊娠中のカップルとステージ別です。4ステップの研修を修め、全世代に対応できるのがバースコーディネーターとなります。1資格取得するごとに、仕事が始められる仕組みです。
バースコーディネーターは2010年現在15名です。約2年半、55日間の研修の後、研修修了試験と、日本誕生学協会の資格認定試験があります。研修も試験もかなり厳しい内容なので、いまのところは15名と少数。お子さんを持つ母親や、シングルの20代女性もいます。
誕生学アドバイザーは、学校に出張授業に行く子どもたち対象の資格になるのですが、こちらは現在250名。約4割が助産婦さんや看護師さん、学校教諭です。誕生学アドバイザーの研修は、入門科が約4ヶ月の8日間、基礎科が約5ヶ月の10日間、専科が約6ヶ月の12日間、研究科が1年間の24日間です。
高橋
プログラム自体はすべて大葉さんが考えていらっしゃるんですか?
大葉
はい。産婦人科医や学術研究者、助産師さんにも指導いいただきながら、学校で展開するプログラムと、そのプログラムを開講できる人材養成カリキュラムを作っています。
研修と認定を終えた人たちは、個々に活躍されているので、私も嬉しい限り。年間145日も誕生学プログラムやベビーマッサージクラスを開講している売れっ子のバースコーディネーターの方もいるんですよ。

大葉さんのハッピーバランスの秘訣は、“お願い上手になること”

高橋
大葉さんの今後の展望はなんですか?
大葉
子育て支援、次世代育成のプログラム、いのちの授業…次の時代の子供たちが幸せになって、心が豊かになるようなプログラムをどんどん創って広めるのと同時に、きっちりエビデンス(科学的根拠)も提示していきたいですね。
そして、「日本には誕生学があるからだいじょうぶ」といわれるような社会にしたいですし、望まぬ妊娠も減らしたい。誰もが「生まれてきてよかった」と思える国になるように、少しでもお手伝いができればと思っています。
高橋
すごく素敵ですね。
そんな大葉さんのハッピーバランスの秘訣は、なんですか?
大葉
そうですね…でも、いい面ばかり書かれちゃうと、「ナナコさんみたいに完璧にできない」なんて誤解されることがあって…。実際の私は完璧とはほど遠い人物で。抜けている部分もたくさんあり、子どもにもツッコミいれられています。(笑)家事代行も月に2回は頼みますし、食事づくりも洗濯物も、家族に助けられています。
ですが、しいてハッピーバランスを挙げるとするなら、私は“お願い上手”だということでしょうか。じつは30代前半で体調を崩し、ひどい自律神経失調症になったことがありました。私自身がオネショをしてしまったことも。ショックでしたが、そのときに思ったのは、体が壊れたら元も子もないということ。夢も目標も叶わなくなります。だから、「もう無理はしない、無理することは格好悪い」と気づいたんです。地に足をつけて生きるって、ちゃんと人に甘えること、できないことは「できない」と伝えることなんだと感じました。
高橋
ほんとうにそう。私もその思い、わかります。
大葉
それまでの自分は意地っ張りで、できない自分を見られることが怖かったんですね。でももう今は、かなり夫や娘にお願いして助けられています。助けてもらえると、精神衛生上いいですし、笑顔の時間が増えますよね。
高橋
笑顔が増えて、愛する心のエネルギー量が増えることが大切ですね。
ところで、大葉さんがこのお仕事をしているのは、ご自身でなぜだと思われますか?
大葉
なんでしょう、なにかに突き動かされている感じはします(笑)
高橋
でしょ?神様はなぜこの命を与えたと思います?
大葉
あらためて考えたことはないですけど、本来の日本に戻したいなという思いはあります。というのも、日本はかつて、“子ども天国”っていわれていたそうです。鎖国が終わって多くの外国人が日本に訪れた際に、日本の親子のあり方を見て、感銘を受けたそうですよ。「こんなに子供を可愛がる国民は見たことがない」って。そんな、子ども天国といわれた国を取り戻したいと思っています。
高橋
私も同じように、愛があふれる社会にしたいと思っています。お話をうかがっていると、考え方が共通している部分がすごく多いですよね。もしかして私達、160年前に会っていたかも!?(笑)。そして一緒に「未来をこうしよう」なんて語り合っていたかもしれないですね。
大葉
ほんと、そうかもしれないですね。「じゃあ160年後に会おう」なんて言ってね(笑)
高橋
では最後に、大葉さんの好きな言葉をおうかがいできればと。
大葉
そうですね、二つあるんですが、一つは、“クレーマーよりクリエイターであれ”。文句を言っているばかりでは何も進まないから、不自由だったら自由に、不幸だったら幸せにするための努力をすべき、「文句いうだけじゃ格好悪いよ、動こうよ、よりよい仕組みを創ろうよ!」という意味です。これは、実家の母の影響。「何でもやってみなければ、わからないわよ!」と言われて育ちました。仕事や人生で常々感じてきたことで、長男に伝えたら「座右の銘になった!」と言ってたし、日々出会う高校生たちにも伝えると喜ばれます。
あと一つは、“出会いは心の背丈”。自分が出会うすべての物事は、自分の心の背丈に合ったものだということ。たとえピンチに遭遇したとしても、自分が乗り越えられるサイズのピンチにしか出会わない、という意味です。「すべてはジャストサイズ&ベストタイミング」だと思うように心がけ、日々ストレスマネジメントに役立てている言葉です。
高橋
素敵ですね。「誕生学」を通して、幸せな誕生の物語を増やしつづけたいという思い、そして決して背伸びをせず、自然体の自分を受け入れて、地に足をつけて生きる姿。大葉さんが輝きつづける理由はそこにあると思います。
多くのワーキングマザー、そして女性たちにとって励みになるお話、本当にありがとうございました。そう、ほんとに同感です。そういう女性たちが、バースコーディネーターとして活躍してほしいと思っています。

Life~ 誕生学の現場から

大葉ナナコの新刊 2010根8月10日発刊。
「Life~ 誕生学の現場から」
ポプラ社 1500円

子どもたちから、産前産後のカップルたちに伝えている「誕生学」Ⓡ。
いのちってスゴイ!自分ってスゴイ!と伝え続ける活動の中で見えてきた大切なこと、プログラムを受講した各世代の感想や、今日から誰でも始められるいのちを大切に伝えあう方法などが満載。
5児の母として、バースコーディネーターとしてLife(いのち、くらし、人生)をあたためるためにまとめた1冊。

http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032468226&Action_id=121&Sza_id=A0

↑ 書店さんを守るために、書店さん受け取りのe-honをご紹介しております。

1 2