早稲田大学ビジネススクール教授 東出 浩教さん【その2】

対談
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ワークライフバランスインタビュー

東出 浩教さん

「ソーシャルでボーングローバルなことを行うと社会を変えられる」

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早稲田大学ビジネススクール教授
東出 浩教さん

東出
いま世界的に、“ソーシャルアントレプレナー”という言葉が浸透してきています。
じつは海外では“アントレプレナー”というとお金を追い求めるイメージが強く、対して“ソーシャル”は、社会的なイメージがある。いま、この二つが組み合わさることが大切だという考えが、世界では15年前くらいからトレンドになっています。 しかし、日本でいい意味で成功された起業家の方は、どこかでこれらが一緒になっているんですよ。だから、日本はこの意味では意外に進んでいた面があるかもしれない。
進んでいたからこそ、貪欲にお金を求める人が生まれてこなかった側面があるのです。
高橋
なるほど、では先生が今日本の社会に最も伝えたいことはなんですか?
東出
一番伝えたいのは、先ほども言った起業家的なリーダーシップを持っている人こそ、これからの世の中で幸せに生きられますよ、ということ。それはつまり、まずは他人との違いを認めましょう、ということです。
日本の場合、出る杭は打たれるという諺もあるように、違いを排除する動きがまだまだいろんなところで見られます。人はそれぞれ生き方が違うし、持っている美徳も違う、人に親切にできる人もいればできない人もいるし、キャリアも性別も違う。自分と同じであるべきだと思わず、違うものは違うんだと認め、その違いを生かすためにはどうすればいいかを、皆で考えながら生きていけたら、日本の社会はドラマティックに変わってくると思うんです。
高橋
個性を知り認め、自分に自信を持ち、世の中に対して何ができるのか、そして、自分の個と相手の個を結びつけてどういう相乗効果が生まれるかを考えることが大切ですよね。
東出
その通りです。やはり自分も他人も楽しくなるためには、互いにいいところを伸ばすしかないんですよね。ある意味で利他主義的な概念を持つことで、日本のモラルレベルがより発達してほしいと思いますね。
高橋
誰もが楽しく幸せに働ける会社を創るには、何が必要ですか?
東出
行先です。同じビジョンを描けるかどうか。
「こんな社会を作りたい」「そこに向かって一緒に走っていこう」という画が描けるかどうか。それができると、公私混同しても幸せに働いていけるわけですよ。そういう方向性を目指すべきだと僕は思っています。
高橋
利他の精神で社会に必要なことを構築し、確固としたビジネスにしていこうという取組みが自然にできるのは、日本人の国民性であると、先ほど先生は仰いましたよね。アメリカ人のような開拓者としての能力は日本人の場合低いかもしれないけれども、社会に貢献するソーシャルの素質は、日本人にはある。その素質を見出して、スイッチオンをすることが先生の役割なのだと思いました。そして、先生がいつも仰ってらっしゃる
“ボーングローバル”という話も、これからの日本人には必要なことになってきますよね?
東出
ええ、そうです。“ボーングローバル”は、初めから世界を見たうえで話を進めましょうという考え方です。
若いうちに海外経験をすることに超したことはないんですが、狭い日本の中で最高のものを追い求めたとしても、やはり限界がありますから、どの時点からでも“世界を見る”ことは起業家として不可欠になってきます。ただし昨今は、たとえばiPadのように世界共通のツールが増え、意外と世界の価値観が近くなっていますから、日本のことだけを考えるんじゃなく、世界の中での自分が、世界に向けて何をやるべきかを考えると面白い時代になってきている。世界の中の一人として、見たり聞いたり考えたり判断したり、企業としても世界を相手にするような起業というものを作り出せる環境は整ってきているので、ぜひ個人個人が大きな夢を持って取り組んでほしい、と僕は思っています。もう一つは、ベンチャーにとってすごく大切なメッセージなんですが、企業がどれくらい大きなビジョンを達成できるかは、起業家の夢の大きさで決まるということです。
世界を変えたいと思っている人が、もしかして世界を変えられるかもしれない。
逆にそう思っていないと世界を変えられないんです。

「日本のサラリーマンの人生を変えたい!」という思いからこの職業に。

高橋
先生が今の仕事を選ばれた理由は何ですか?
東出
まず今の仕事を選んだ理由はですね、僕は昔、鹿島建設という大企業に勤めていて、初めの4~5年は建設現場に行っていたんですよ。その後本社に戻って働き始めたときに、正直、「こういう大きな枠の中で働くことは俺には向いてない」と思い、そして「日本のサラリーマンの人生を変えたい」と思ったんです。
そのために何をやるか、やりたいかを考え、まずMBAを会社から取らせてもらいました。
それは何故かというと、ベンチャービジネスを始める日本人が増えることによって、日本人のサラリーマンが救われると思ったから。当時はね、「俺が日本を変えてやる」って思ってまして(笑)「自分がベンチャーをやって、ロールモデルになって、日本のサラリーマンの人生を変えてやる!」と思ったのが、この仕事のそもそものきっかけなんですね。それは今ももちろん思っていて、難しい面もありますけど、それ以来ずっと続いているのは、子供のような気持ちでさまざまなことを考え、生活を謳歌するということ。
いろんなことに好奇心を持ち、いろんな妄想(?)をして、実現できないかと考えているわけです(笑)
高橋
子供のように好奇心旺盛な先生、すごくチャーミングですね(笑)
東出
僕と同じように、たとえば20代の若い起業家たちにも、一進一退しつつ、常にワクワクしながら仕事ができるような場を作ってほしい、そしてそうした会社の経営者が次世代のリーダーになってほしいと、僕は常に願っているのです。
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