ワークライフバランスインタビュー
「ソーシャルでボーングローバルなことを行うと社会を変えられる」
第17回
早稲田大学ビジネススクール教授
東出 浩教さん
- 高橋:
- そういう気持ちを伝えたかったから、この職業を選ばれたわけですね?
- 東出:
- そうです。そしていろいろな縁があって、ベンチャーという分野で博士号を取りました。
おそらく僕が日本で初めてだと思います。その後この早稲田大学のビジネススクールにお世話になることになって、十数年経ったのですが、結果は今までお話したとおり、日本人で起業家という裾野を広げていくのは、よっぽど国家的な危機にならないと無理だなと思い…。もしかして今がそういう時期なのかもしれないけれど、自分で考えて何かやらなきゃ生きていけないというところまで追い込まれないと、日本人は起業してリスクを負うことはしない民族かもしれないですね。まあ、潜在的なパーセンテージは少ないとしても、日本で起業家の素質を持った人たちを見つけ出し、彼らの能力を引き出すことが僕の役割。
彼らがひとつのビジョンに向かって突っ走り、そして「自分の人生は面白いんじゃないか」と思えるような社会の流れを作りたいと思っています。 - 高橋:
- 日本社会の中で、ソーシャルにも重きを置いたビジネスが出てくると、それこそ先生が仰るように日本を変える、世界に影響を与えるものになっていくんでしょうね、きっと。
- 東出:
- それはなると思いますよ。いまの日本の優秀な起業家の方は、日本でビジネスをやってもしょうがないと思っているはずですよ。
少し夢のある人は、すでに日本という枠を超えちゃっている。ボーングローバル、つまり世界を変え始めていく人たちが今後増え、次世代のロールモデルとなる人たちが出てくれば、それは一つの喜ぶべき将来の道筋だと思うんですよ。 - 高橋:
- 先生のお話を聞いていると、私はいつもすごく感化されて、自分も何かやらなきゃとムズムズしてきます(笑)
- 東出:
- ボーングローバルという動きをしないと、日本が見えなくなってくるし、日本がどれだけ三流国なのかをみんな実感として持ってないと思うんですよ。過去20年、日本はいかに新しいことをしてこなかったか。今回の原発事故でさらに三流国ということが世界に知らしめられましたよね。この危機的状況の中から、ソーシャルでボーングローバルなことを行うと社会を変えられるし、それが世界中に受け入れられていく。正直なところ、政府はもう頼りにならないので、我々の力で文明を変えていかなければならないと思っています。
- 高橋:
- 先生がこの仕事を通して得たものは、そこですか?
- 東出:
僕自身の中で変化はありまして、僕は昔、どちらかというと日本人的じゃなかったと思いますが、一時期はベンチャーをやって金儲けしようと思っていたんですよ。根幹にある目標は日本のサラリーマンの人生を変えたいということでしたが。ただその後いろんな人達と出会い、話し、研究し、最近強く思い始めたのは、お金とソーシャルが分かれて議論される海外と違って、両者が近いところで議論されているのが日本だということ。
たぶんどの国の起業家も、最初はお金のことを考えるはず。しかし日本の起業家はそれがある程度達成できると、ふと立ち止まって考え始めるんです、「いったい幸せってなんなんだろう」と。
その思いが生まれると、次のステップとしてソーシャルのことを考えるようになる。自分は成功させてもらったから、次は他人にも成功してもらいたいという利他の気持ちがどんどん広がって、他人を支援しながら育てていこうという人が増えてくるんです。- 高橋:
- 成功と幸せが一緒になることが、ある意味、ソーシャルビジネスのエッセンスだと聞こえたのですが。
- 東出:
- そうです、まさに成功は幸せでなくてはいけない。理念のない経営は長期的にはダメなんですよ。
そしてそれを突き詰めると、自分も人も幸せにしないと会社は結局ダメになるんです。
そう考えると、日本のベンチャー起業家でひと山超えた人達は、日本的な価値観を世界に向けて発信していける時代なんじゃないかと期待しています。 - 高橋:
- 私も、日本の人材力とホスピタリティを商品にして、日本から海外に向けて発信すると同時に、日本の雇用を増やし、日本のソーシャルビジネスをより発展させていきたいと思っています。
東出教授のハッピーライフバランスとは?
- 高橋:
- ところで、先生はハッピーライフバランスについて、どう考えていらっしゃいますか?
- 東出:
- そうですね、僕は一般的なサラリーマンの生活を脱することができたので、そこはハッピーだったと思っています。ただ、今の大学に来てからのことを考えると、「もっとたくさんの起業家が自分の周りに新しく生まれてきたはずだったのに、思ったほど生まれていない、なんでだろう」という気持ちはある…今後はやり方を少し見直し、パッケージを変えて進めていきたいと思っています。自分でも思うのですが、10年前の自分よりも今の自分のほうがより立体的になっていますので、もう一回ジャンプする時期なのかなと、いま思っているところです。なので、僕のハッピーライフバランスは、“もう一度ジャンプしたい”と思えることだと思うんですよ。
- 高橋:
- すばらしいですね。そんな先生の今後の夢は何ですか?
- 東出:
- いろんなことがあるんだけど、とにかく世界を変えたいということ。
ちょっと壮大に聞こえるかもしれないけれど、本当にそう思っていますよ。死ぬまで飛び回りながら、ふと振り返ったときに、「結構世界を変えたんじゃないかな」と、そんな風に思えればいいなと。そのためにはいかに人と違うように考えるかを、常に心がけていますよね。 - 高橋:
- では最後に先生の座右の銘を教えてください。
- 東出:
- 座右の銘ってあるのかなあ。座右の偉人でもいいですか?とするなら、南方熊楠のように生きたいかな(笑)ああいうイメージの人になりたい。好きなんですよ昔から。キャラとか生き方とか、日本人として、初めてに近いと思いますが、世界で科学者として認知され、でも酒癖悪かったりと奔放な面もあって、でも一方で天皇陛下に講義をしたりと、じつに面白いんですよ。行動としては突飛な人なので、全く同じように生きたいと思うわけじゃないのですが、僕に多大なインスピレーションを与えてくれる人物ではあります。まあ敢えて座右の銘を書くとすると、「縄文人になりたい」ということかなあ。
- 高橋:
- え、それってどういうことですか?(笑)今の国を変えていこうとする人なのに?
- 東出:
- いや、今だからこそ縄文人なんですよ。縄文人って上下関係とか一切ないですからね。
じゃあ、“縄文人could change the world”にしましょうか。岡本太郎って縄文が好きだったんですよ、なんとなくわかるでしょ?クリエイティブな人は、自然の造形からひらめき何かを生み出すことが多いんですよ、自然と一体になって何かを創り出していく感覚で、change the worldをする。先述の南方熊楠は、限りなくそこに近い感覚の人間なんです。 - 高橋:
- 何事も枠に囚われていては羽ばたけないという意味なんですね。大きなビジョンを持ち、大きな夢を描き続け、大らかに自他を認めることで、よりいっそう飛躍することができる。そんな起業家としてのあるべき姿を、先生自身から学んだように思います。今回は面白く内容の濃いお話、ほんとうにありがとうございました。
