ワークライフバランスインタビュー
「夢を常に持ち続け、それを追っていくことが人生の楽しみ」
第18回
日本オリンピック委員会理事
荒木田 裕子さん
“努力はあなたを裏切らない”コツコツやれば必ず報われる
- 高橋:
- ところで、荒木田さんの現役時代のお話を少しうかがえますか?
- 荒木田:
- 現役時代の話ですか? 語ったらきっと2年くらいは話し続けますよ(笑)。
- 高橋:
- ほんとに?!それはぜひ2年かけてうかがいたいところですが、今回は残念ながらさわりを。
バレーボールを始められたのはいつ頃ですか? やはり小学校の頃から? - 荒木田:
- いえいえ、小学校の頃はポートボール(バスケットボールに似た競技)をやっていました。その当時一緒にやっていた子たちがみんな仲良しで、中学に入ったらバスケットをやろうねと話していたんですが、実際入ってみたら女子のバスケットボール部がなくて…
- 高橋:
- えっ、まさかそれでバレーボールに?!
- 荒木田:
- そうなんです、「じゃあ、みんなでバレーボールをやるか」ということになって。結構安易でしょ?(笑)
やってみたら、それはもう楽しくて楽しくて。学校に行くのがほんとうに楽しかった。顧問の先生はバレーボールのバの字も知らないような方でしたけど、おもしろくて温かい人でした。練習後にみんなで教員室に行くと、先生がラーメン作ってくれたりしてね、そのうち他の部活の生徒や先生も集まってきて、そこでみんなで人生の話が始まるんですよ。「やっぱり夢はな」とかいって。それがほぼ毎日でしたね。人生であの時が一番楽しかったかもしれない。 - 高橋:
- すごく素敵なお話ですね。バレーボールを学びながら人生も学んで、そして皆で共感して。
- 荒木田:
- そう、ほんとに。みんなとやるバレーボールがあまりに楽しくて、私は本当は進学校に進もうと思っていたんですけど、願書提出前日になって「やっぱりみんなとバレーやるか!」と思い、急に方向転換して(笑)
結局、仲間と同じ高校に進んで、バレー部に入りました。

- 高橋:
- 仲間を選んだんですね。しかし、そこまで結束の固いメンバーが入学するんですから、その高校のバレー部は急に強くなったんじゃ?
- 荒木田:
- そうなんです。さほど強い学校じゃなかったのに、全国大会に行っちゃって、2位になって。
高校3年間はバレーに浸りました。その頃ですね、もしかして私もオリンピックに行けるんじゃないかと考えるようになったのは。なので、進路としては大学にも行きたかったのですが、それはバレーを辞めた後でもいいわけですし、とにかく今しかできないことをやろうと。それで日立に入ったのです。 - 高橋:
- いよいよオリンピックへとなるわけですね。日立に入ったら、やはりそれまでの感覚と違いましたか?
- 荒木田:
- 私は日立で山田重雄監督に出会うわけなんです。私が現在いろいろな仕事をやっている原点は、日立で彼に教わったことにあると思っています。山田さんがいつも言っていたことが、「世界だ」ということ。
日本一じゃなくアジア一じゃなく、世界一を目指すんだと。常に高い意識を持って臨むことを学びました。
それに、山田さんがすごいのは、選手それぞれの個性を生かすことがとにかく上手いんですよ。各人の長所を褒めて、どんどん伸ばしてあげる。すると、人間って一つのことが認められたら、弱点を克服しようと努力するようになるから、自然に弱点もなくなってくるんです。そうしたことを踏まえて、大きな懐と視点で選手たちを導いてくださる方だったと思います。 - 高橋:
- かっこいい方だったんですね。今の社会でも、山田監督のような考え方の経営者は必要だと思います。
社員一人ひとりの個性を生かして、いろんな仕事をどんどんやらせてあげて、何かあればトップである自分が何とかしてやるみたいな、そういうリーダーシップが求められていると思います。ところで、荒木田さんは23歳で現役を辞められて、それ以後、どのような道を歩んでいらっしゃったのですか? - 荒木田:
- 私は現役を引退した後からがいろいろあるんですよ(笑)
スイスに渡って現地のチームを指導していたのですが、その時はまだバレーボールで仕事をしていくことに迷いがあって、でも、ある会合で一緒になった海外の選手に、「せっかくやってきたバレーボールを生かさないでどうする?!」と言われて。そこで考えが変わりましたね。バレーボールでやっていく決心がついたというか。それからコーチ業に真剣に取り組むためにドイツ語の語学学校に通い、次いでドイツに渡ってそこでもコーチをやりました。その後は英語をちゃんと勉強しようと思い、イギリスに。
帰国後は、現在のように日本バレーボール協会の仕事をやらせていただくようになりました。 - 高橋:
- そうしたさまざまな人生経験は、今のお仕事にすべて生かされていると思いますが、自身の経験を通して次世代のアスリートたちに伝えたいことを特に3点挙げるとするならば、何になりますでしょうか?
- 荒木田:
- そうですね…、まず1点目は、“努力はあなたを裏切らない”こと。コツコツやれば必ず報われるものです。
2点目は、“グローバルな思いを持ち続けること”。私が海外の言葉を勉強した理由はそれで、自分の言葉で話せば仲間ができるし、そうすればネットワークができて、より世界を小さく感じることができるはずです。
3点目は、“謙虚な心”。私がこんなことを言うと「それって絶対ありえない」なんて声がでてきそうですが(笑)常に謙虚な心を持って、真摯に取り組むことが何事も大切だと思っています。
この3点以外にもう一つ、将来のアスリート達に伝えたいことがあるのですが、それは、これからの時代にアスリートとして生き抜いていくためには、まず人間力をしっかり蓄えてほしいということ。練習ばかりやっているんじゃなくて、世の中のいろんな面を見て、アンテナを張って情報を集めて、自分の中の引出しを増やしていく。技術だけではなく精神を磨き上げてほしいと思っています。