ヘアサプライ ピア 代表取締役 佐藤 真琴さん【その2】

対談
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ワークライフバランスインタビュー

佐藤 真琴さん

「患者さんの笑顔を作りたい」

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ヘアサプライ ピア 代表取締役
佐藤 真琴さん

“おせっかい”こそが、ソーシャルビジネスマインド

高橋
では、「ピア」の具体的な事業内容、お客様がどうやって「ピア」を知るのかから始まり、どのようなサービスを受けていくのか、大まかな流れを教えてください。
佐藤
病院でがん宣告を受けると、看護師から治療の説明があるのですが、そのときにうちのパンフレットを渡していただいています。そして患者さんがうちに電話をかけてくださり、実際にいらっしゃって、相談をします。いつごろかつらが必要になり、いらなくなるのか、その方の治療サイクルに合わせてプランを立てるのです。かつらを作り、地毛を切り揃え、また、かつらを使っている際はメンテナンスも行います。患者さんの地毛が生えてきて、普通の美容院に行けるようになるまでが私達の仕事。金額的には、かつらが約5万円、かつらのカット代が約5万円、地毛を切る場合は1回5000円~1万円ですね。
高橋
なるほど、従来のかつらと比べたら、かなりリーズナブル。それは患者さんにとってはすごくありがたい金額ですね。
佐藤
抗がん剤で髪の毛が抜けることを、必要以上にマイナスに感じてほしくないんです。ツールさえあれば、通常の生活を送ることができるのですから。
高橋
真琴さんは患者の方を弱者として扱うわけじゃなく、がんとともに少しでも心豊かに歩んでほしい、という思いでいらっしゃるんですよね?
佐藤
そうですね。かわいそうと言うことは簡単なんですが、そのかわいそうな状況にしているのは、手段がないからなんです。手段さえあれば、通常の生活ができる。例えば、私はすごく目が悪いのですが、もしメガネやコンタクトがない時代だったら、完全に弱者ですよね…それと同じなんです。物だけではなく、メンタル面もそうです。気持ちをケアする場所さえあれば、患者さんは病気に負けない心の強さを持てて、弱者にならないかもしれない。そうした場も作っていきたいと思っています。
高橋
「ピア」では、がん患者の方々に必要な環境作りや、強く歩んでいくための情報や術も伝えていらっしゃるのですね。じつはね、このインタビューは“ハッピー”と謳うだけあって、幸せを提唱し、商品サービスを育んでいらっしゃる方を中心に取材してきているのですが、「“ピア”様のような活動だと、もしかして重いんじゃないか」という意見が社内であったんです。でも私は、以前から真琴さんの活動を見ていたので、「そうじゃない」と思いました。かわいそうという同情でやっているわけじゃなく、少しでも前向きな気持ちで歩んでほしいという思いで、情報や環境やコミュニティを発信していることを伝えたかった。真琴さんやピアの皆さんは、まさに「幸せな生き方」を商材としているといっても過言ではないですよね。
佐藤
そう言っていただけると嬉しいです。
高橋
ピアを立ち上げる上で一番重きを置かれたことは何ですか?
佐藤
患者さんのペースに合わせることです。単に物を売るだけならば、こちらのペースに巻き込んだほうが売れるのですが、そうじゃなく、うちの場合は患者さんが腑に落ちてもらわないとしょうがないんですよね。患者さんが、「このかつらを買って、働き続けよう」とか、「子供の卒業式に出よう」とか、そういう前向きな気持ちになってもらえることが一番大切なんです。
高橋
「ピア」を立ち上げて良かったことはたくさんあると思うのですが、ひとつ挙げるとするならば、どういうところですか?
佐藤
患者さんが元気になっていく姿を見ると、誰もがこの仕事にハマると思います。かつらを付けることで、みなさん笑顔で帰っていかれるんですよ。それに、そのまわりの家族の方も明るくなっていくんです。そんな光景を目の当たりにすると、言葉にならないくらい嬉しいですね。それがこの仕事の一番いいところだと思います。
高橋
そうしたソーシャルビジネスを手掛ける真琴さんにうかがいますが、ソーシャルビジネスとは、何だと思いますか?
佐藤
例えば、八百屋さんが大根を仕入れて売っていたら、それは商売。でもその大根をもっと買いやすくするとか、おばあちゃんだったら大根を1/2本しかいらないので、1/2本にして、しかもそれを自宅まで届けてくれるとか。顧客それぞれに合うきめ細かなサービスを提供できることが、ソーシャルビジネスだと思います。
高橋
それは同感です。困っている人に対するビジネスだけがソーシャルビジネスではないですよね。当たり前の生活や社会にあるものを、より輝かせる、より利便性を高める、より社会性のあることに結びつけることも、ソーシャルビジネスだと思います。その根本にある “ソーシャルビジネスマインド”というのは何だと思いますか?
佐藤
それは結局、“おせっかい”だと思います。私はそもそもが看護師で、まあ今はビジネスという切り口になっていますが、看護師目線でいることには変わりありません。簡単に言えば、おせっかいなんですよね(笑) 別におせっかいしなくても生きていけるんですが、おせっかいしたら、より楽しく、より豊かに生きていけるような気がしています。私は田舎育ちなのですが、昔って、近所のおばちゃんとかにスリッパで叩かれるとかいうことがありましたよね。
高橋
ありましたね(笑)、私なんていつも首根っこ掴まれて、「どこの誰だ!」なんて叱られて(笑)。
佐藤
そうそう、あれなんですよ、究極のおせっかいは。ソーシャルビジネスで忘れてはいけないのはそこだと思います。おせっかいをすれば人に揶揄されるかもしれないけれど、そこは負けずに自信を持って、プロフェッショナルとして手を出していけば、社会がもっと暮らしやすくなるんじゃないかと思います。
高橋
たしかに。すばらしいお話ですね。
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