ワークライフバランスインタビュー
「ワークライフバランスは生活と仕事の質の相乗効果を図るもの」
第4回
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
渥美 由喜さん

このように小さなことからでもまず行動することが、社会を良くするきっかけになります。
ワークライフバランスも同じく、個人でできることから始めてみましょう。
きっと変化が起こるはずです。
まずはここから - 個人でできるワークライフバランス推進とは-
- 高橋:
- 次は視点を変えて、個人ができるワークライフバランス推進について教えていただけますでしょうか。
- 渥美:
- まず仕事をしている方は「俺が行かないと会社が回らない」というアイデンティティを捨て去ることです。自分しかできない、あるいは分からないことを抱え込んで、早く帰りにくくなる、休みにくくするといった、自分で自分の首を絞めているような状況は往々にしてあります。つまり社員は自分の暗黙知が自分の首を絞めていることを自覚することが第一です。それに加えて、企業は「情報をオープンにする方が得」というメッセージを示すことが重要です。
暗黙知、共有知という言葉があるのですが、一社員にしか分からない暗黙知が多ければ多いほど企業は損をします。それをできるだけ多くオープンにさせて共有知にすれば、一社員だけが持っていたスキル、知恵が皆のものになり、企業の財産となります。しかし従業員にとって同僚は仲間でありライバルですから、ノウハウを全てオープンにしてしまうと、自分と他人の差別化が図れません。
その点、先進的な企業の中には情報をオープンにすることに評価ポイントを付け、共有知を知識財産として増やすと同時に、ワークライフバランスを促進させているところもあります。 - 高橋:
- 子供がいる人、あるいはいない人という面で、ワークライフバランスについてできることに違いはあるのでしょうか。
- 渥美:
- まず子供がいる人についてお話しましょう。
子供を授かる時は男性がワークライフバランスについて意識改革する最適な時期です。女性は出産後には本能で母親になれますが、大方の男性は、「自分は父親だ」と意識しないと父親になれません。男性はそこで「自分は家族のために生きる」と受け止め、ワークライフバランスを意識した人生にシフトチェンジするべきです。
子供のいない方に関しては、いないからといってワークライフバランスできない・しないでよいといったことはありません。
昨今の時流の早さから察するに、これから更に会社の将来が読みにくい世の中になります。かつてのように会社に依存することは危険であり、社会人は常に能動的にスキルアップをすることが望ましいと思います。そこで、ワークライフバランスを意識し、ライフの時間の中で、自己研鑽の為の時間を確保することはとても大切です。 - 高橋:
- では、子供を育て上げた人ができることをお聞かせいただけますか。
- 渥美:
- 特に年配の男性は、社会システムの変化を学ばないと、きちんとした理解は進みません。学ぶためには奥さんや娘さんの声に耳を傾けることです。そうすることでまず子育て世代のニーズを根本から理解すべきです。
「個人ができるワークライフバランス」に加えて、『次世代育成支援』すなわち「次の世代をどうやって育てていくか」という考え方はとても重要です。私は一人の人間には、「家庭人」、「地域人」、「職業人」3つの顔が必要だと思います。うまくワークライフバランスのできていない男性ですと、「職業人」の顔が大半、「家庭人」があるかないか、「地域人」という顔をもつ男性はほとんどいないと思います。
このように3つの顔の間でアンバランスが起きているのが現状です。ここでワークライフバランスを進めれば、「地域人」として子供に関わりを持てる男性は増えていきます。つまり地域社会全体での次世代育成が可能になり、自分、社会、家庭・・・あらゆることに好影響をもたらすことになります。
3つの顔のバランスをうまく保つことができれば、「家庭人」、「職業人」、「地域人」として心豊かな人生を送ることができます。また「地域人」として同じ地域社会の子供と関わり合ことが、結果的に『次世代育成としての少子化対策』になるのです。
このサイクルを持つ社会経済体制が、本来的に『ワークライフバランス』が目指すものであると私は考えております。
これからの渥美さんの活動 - 『ワークライフバランスのシフトチェンジ』-
- 高橋:
- 最後にこれからの渥美さんの活動についてお伺いできますでしょうか。
- 渥美:
- まず政治・行政がワークライフバランスおよび少子化対策を推進する際に、多数におよぶ企業ヒアリングを実施してきた調査結果を踏まえて、実効性のある政策提言を継続していきたいと思います。
いま政治・行政では言行不一致が起こっていますね。例えば霞が関ではワークライフバランスとは程遠い働き方をしている方々が多い。政治と行政が率先垂範してワークライフバランスを進めなければ、民間の企業が努力して進めてもいずれ息切れするのではないかと私は思います。
また、現在は『経営戦略としてワークライフバランス』というアングロサクソン型のアプローチが大半なのですが、これからは先ほどお話しした、『心豊かな人生を送るためのワークライフバランス』という大陸ヨーロッパ型のアプローチにシフトチェンジするべきです。そのときには行政の果たす役割というのは非常に大きいと思います。まず政治と行政をワークライフバランス推進に対して率先垂範できるように提案し続けます。その上で社会全体のワークライフバランスへの気流を加速させ、少子化に歯止めをかけられる社会経済環境作りに尽力していきたいと思います。 - 高橋:
- 渥美さんの仰るような社会経済環境の実現の為に、私共ベアーズも『ワークライフバランス支援企業』としてお力になれるよう、成長を続けて参ります。
- 渥美:
- とても期待しております。
ワークライフバランスを目指す企業、もしくは個人が、ベアーズさんのような企業とパートナーシップを組み、win-winになる関係が広がっていかなければ、日本のワークライフバランスは進展しないと私は考えております。
そういう意味でベアーズさんの果たす役割は大きいのです。 - 高橋:
- 私共も渥美さんの今後のご活躍を期待しております。
本日はお話有り難うございました。 - 渥美:
- 有り難うございました。

≪対談を終えて≫
「幸せ」というものには様々な形があります。
子どもと過ごす時間に感じたり、困難な仕事を成し遂げた瞬間に感じたり、 趣味の読書に没頭しているときに感じたり・・・。
このように幸せの形には枚挙に暇がありません。
これら「幸せ」の根源に、“仕事”と“生活”は外せない柱であると私は思います。
私たちの時間は仕事と生活で構成されていますので、当たり前といえば当たり前ですが、 そう気づけば、「幸せ」への道しるべがワークライフバランスであることにもまた 気づくはずです。“ワーク”と“ライフ”の相乗効果が幸せを生み出すのです。
さあ、皆様も『ワークライフバランスして』幸せに一歩近付きましょう。