ワークライフバランスインタビュー
「超つらいけど、超楽しい。努力はきっと報われるから」
第22回
ブックオフコーポレーション株式会社
取締役会長
橋本 真由美さん
けもの道からカーナビ、そして地図へ
- 高橋:
会長が考える、現場をイキイキと活性化させるために必要な要素とは何でしょうか。
- 橋本:
- スタッフ、社員のモチベーションですね。経営資源ってよくヒト・モノ・カネと言いますが、私はヒト・モノ・カネ+モチベーションだと言っています。現場のスタッフがみんな楽しくやる気を持って仕事をしていれば、業績はほうっておいても上がってくると思うんです。
- 高橋:
- スタッフの方々を尊重し、互いにリスペクトしあうことが大事なんですね。以前お話をうかがった時は、それに加えて、さらにシステマティックな仕組みがある印象を受けました。
- 橋本:
- 人材育成の仕組みとしては、キャリアパスプランというスタッフ戦力化のシステムを導入しています。日本マクドナルドの1号店のSV(スーパーバイザー)だった方にコンサルティングしていただいてつくりました。マクドナルドのパテやバンズを焼くなどの工程を、私達流に「本の加工をするには何センチ角の紙やすりで」とすべて置き換えてマニュアルをつくったんです。作業指示というよりは、努力の方向性を示し、結果に対して正当な評価をするものです。ランクがあがれば時給も上がる。1歩ずつ段階を上がっていこうという、向上心を持てるようなシステムになっています。
- 高橋:
- どうしてそのシステムを導入することになったのですか?
- 橋本:
- そうですねえ、最初の育成はいわゆる「けもの道」型だったんです。とにかく現場に放り込んで、根性論で鍛える。だから、体力とやる気がある人だけが生き残りました。でもそれでは、人は育ち切れないんです。だから、何をやったらランクアップできるのかを具体的に教えてあげることが必要だと思って、システムをつくりました。社員も「けもの道」型の頃とは変わってきていますからね。
- 高橋:
- 「けもの道」ってすごいですね。それでは、いまは何型の育成なんですか?
- 橋本:
- いまは「カーナビ型」と呼んでいます。ツールに則って、設定すれば自動的に目的地につく。でもこれが難しいところなんですが、けもの道も悪いところばかりじゃないんです。どうやったら売上が上がるのか、不振店を立て直せるのか、朝から晩まで必死に考えてがむしゃらにがんばるのは、やっぱりすごい力が出るものです。ただ、かつては休まないで働くことが良しとされていましたが、そんな勤務体制は上場企業として許されません。そういう意味でけもの道型に戻すつもりはないんですが、けもの道的なハングリー精神は必要なんじゃないかと思います。
- 高橋:
- カーナビの目的を、自分の意志で設定することが大事なのかもしれませんね。
- 橋本:
- カーナビとけもの道の間……、となると地図でしょうかね。
- 高橋:
- ああ、地図! 私も仕事やプライベートの目標を書いた「夢の宝地図」というのをずっとつくっているんです。こうなりたいということではなく、「◯◯年にはこうなっている」ということを書いて、その時の自分の気持ちまで書くんです。それを目につくところに貼ってあります。
- 橋本:
- いいですね、夢の宝地図。やっぱり会社が成長することと、自分が成長することがイコールでなくてはならないと思うんです。その宝地図を持って、「あの山はちょっと険しいけれど超えなければ」「遠回りしたほうが早道かもしれない」など、自分で考えながら歩いていってほしいです。
- 高橋:
- いまの店舗数はどれくらいなんでしょうか。
- 橋本:
- 直営店が300店、加盟店を合わせると900店、本・CD以外の店舗も合わせると全部で1100店ほど展開しています。
- 高橋:
- すごいですね。それでは、そこで働いていらっしゃるスタッフさんは何人くらいいらっしゃるんですか?
- 橋本:
- 直営店だけでも、社員がざっと1100人くらいで、アルバイトのスタッフさんは1万人くらいでしょうか。やっぱりここまで増えると、なかなか直接コミュニケーションを取るのは難しいですよね。たまたま機会があった社員とごはんを食べに行くことはありますが、それでも数人程度です。だんだん距離が離れていくのを感じます。
- 高橋:
- 会長になられてからは、本部での業務が大半なのでしょうか。
- 橋本:
- そうですね、一応管理部門の仕事が主になってくるのですが、私は本当にそういった仕事が苦手で(笑)。そしてやはり、結果的に数字を上げるためには、人材を育成することが必要だと痛感しています。人材をどう育成するかはずっと伝えてきたつもりですが、伝えるだけでは満足できず、最近はまた、現場に入ることにしました。
- 高橋:
- 会長みずから!
- 橋本:
- 10年前くらいまでは店舗で店長をやっていたのですが、本部に来て、「陸(おか)に上がった」仕事ばかりという感じで、研修もインストラクターとして関わるだけだったんです。でも、どうもうまくいかない。現場が変わってきているのを感じていました。なぜできないの、なぜこうなってしまうの、と「なぜ」が続いたんですね。それで、これはもう言うだけではダメだ、自分がやって見せようと思い、最近では本社の前にある店舗になるべく入るようにしています。
- 高橋:
- じゃあカウンターに立ってらっしゃったりするんですか?
- 橋本:
- もうレジは打てないんですけどね(笑)。10年のブランクはやっぱり大きくて。だから、買取させていただいた本の処理や、外の草むしりなどをやっています。ブックオフはこんなものじゃないんだよというのを見せたいんです。それには、いくら講演会の壇上から話してもダメだと思うんです。中身が伴っていないと伝わらない。だから、私は現場に入るんです。