ワークライフバランスインタビュー
「超つらいけど、超楽しい。努力はきっと報われるから」
第22回
ブックオフコーポレーション株式会社
取締役会長
橋本 真由美さん
Profile
ブックオフコーポレーション株式会社
取締役会長
1949年生まれ。福井県出身。一宮女子短期大学卒業。一宮女子短期大学家政科栄養コース卒業後、栄養士として工場や病院で栄養指導に従事。その後、結婚して主婦となる。2児の母として子育てをし、子供が高校生になり「少しでも学費の足しになれば」と思い、ブックオフ直営1号店(神奈川県相模原市)のパートタイムのオープニングスタッフとなる。その後、直営2号店の店長、取締役、常務などを経て2006年に社長に就任し、翌年には取締役会長に。会長になった現在でも店舗を飛び回り、売り場に立ち、店舗の改善・従業員の教育に努めている。
「橋本真由美」を認めてくれたブックオフ
- 高橋:
- 橋本会長が、ブックオフコーポレーションの社長に就任されたのは2006年のことです。当時、かなり話題になりましたね。
- 橋本:
- そうですね。パートのおばちゃんが一部上場企業の社長になったということで、「シンデレラ・ストーリー」と書かれたこともありました。まあ、当時大きな事件がなかったからだと思いますけども(笑)。
- 高橋:
いえいえ、この人事で勇気づけられた女性は多かったと思いますよ。橋本会長は、ブックオフでパート勤務を始めたのは何歳の時だったのですか?
- 橋本:
- 41歳のときですね。それまでは18年間、バリバリの専業主婦でした。
- 高橋:
- どんなきっかけでブックオフのことを知ったのでしょうか。
- 橋本:
- オープニングスタッフを募集する折り込みチラシを見たんです。それが1990年のことですね。ちょうど長女が高校生になり、この先の学費が心配になってきた頃でした。自分だけ三食昼寝付きで習い事なんかしてる場合じゃない、何か仕事をしなければ、と思っていたんです。
- 高橋:
- 普通パートというと、働く先をどんどん変えていく人も多いですよね。なにか辞められない魅力がブックオフにあったのでしょうか。
- 橋本:
- そうですね、一言で言うと「ハマって」しまったんです。理由は3つあります。1つは、私個人を認めてもらえたということ。それまでの18年間は、「橋本さんの奥さん」「◯◯ちゃんのお母さん」、あとラッシーという犬を飼っていたので「ラッシーのおばちゃん」で通ってたんですよ。
- 高橋:
- ああー、ありますねえ。
- 橋本:
- 自分もそれまでは「おばちゃーん」と呼ばれて、何も違和感なく「はーい」と返事をしていました。でも、仕事だと「橋本真由美」個人を認めてもらえるんです。ブックオフでは公平な評価をしてもらえました。がんばっている人がバカを見ない評価と言いますか、がんばったらがんばった分だけの評価をしてもらえた。その代わり、手を抜いている人はそれなりの評価しかされません。見ていてくれる人がいるというのは、モチベーションにつながります。
- 高橋:
- ブックオフは、創業時からそういう公平な風土があったんですね。
- 橋本:
- 2つ目は、毎月25日にお給料が振り込まれること。これはとても新鮮な経験でした。
- 高橋:
- 自分で稼いだお金が入ってくる、というのはいいものですよね。
- 橋本:
- 3つ目は、中古業のおもしろさです。お客様に売っていただいたものを加工して、それをまた新しいお客さまが手に取り、レジに持ってこられたときというのはとてもうれしいものがあります。この3つで、どんどん仕事にハマっていきました。
- 高橋:
- ハマりすぎて、今こんなことに(笑)。
- 橋本:
- そうなんです。採用の面接時には「家事があるので16時には帰ります」と言っていたのに、気がついたら朝の4時に帰るようになって(笑)。
- 高橋:
- 12時間も違うじゃないですか(笑)。
- 橋本:
- その頃は日本全国に店舗を立ち上げていたので、そうしないと間に合わなくて。でも、どんなに忙しくても、私は田舎の保守的な価値観の家で育ちましたから、夫に家事をやらせるなんて考えられなかった。全部自分でやろうと思っていました。だからその頃は。2ヶ月で8キロ痩せましたね。
- 高橋:
- うわあ、すごいですね……。
- 橋本:
- いまはどんなダイエットをしても全然痩せないんですけどね(笑)。私はブックオフで働く前、いわゆる鬼ママ、教育ママだったんです。掃除、洗濯は完璧に。食事も添加物が入ったものは一切食べさせない。子どもには18:30の門限を守らせるために、バス停でわざわざ待っていました。PTAの会合にもかかさず出席していました。
- 高橋:
- そうだったんですか。
- 橋本:
- でも前に立つようなタイプではなくて、保護者会では他のお母さんの後ろに隠れて「橋本の母でございます……」と小さな声で挨拶していました。今言うと、みんな「ウソでしょ?」って言いますけど、本当だったんですよ。
- 高橋:
- それはもう別の人じゃないですか?(笑)かく言う私も、保護者会の自己紹介なんかは緊張して、もう大変です。
- 橋本:
- それこそウソでしょう?(笑)
- 高橋:
- 本当ですよ! でもそんな教育ママだった橋本さんがブックオフにハマって、夜中まで帰ってこなくなってしまったと。お子さんの反応はどうだったんですか?
- 橋本:
- むしろよかったんじゃないでしょうか。娘の友達が「橋本さんのお母さんがあのままずっと家にいたら、あなたはまともに育たなかったかもね。外に働きに行ってよかったね」と言っていたそうです(笑)。友達が来ても「明日、中間試験でしょう!」って口うるさく言うような母親でしたからね。
- 高橋:
- ありあまるパワーが仕事に向かって、お子さんもほっとしたと(笑)。
- 橋本:
- 働き始めてから、悩んで辞めようと思ったこともあるんです。でも子どもに相談したら「やめて、あのパワーがまた私達に向かうと大変だから!」と言われまして。
- 高橋:
- ああ、それは、うちの息子と娘もよく言いますね。「お願いだから、お母さんは一生働いていて」と言われます(笑)。では、41歳でいきなり社会に出たことで、戸惑いもつらさもあったと思いますが、それを上回る楽しさがあったから乗り越えられたんですね。
- 橋本:
- おっしゃるとおりです。「超つらいけど超楽しい」とよく言っています。寝る時間もないし、本の倉庫はホコリだらけだし、重たいし、この仕事はつらいことだらけなんですよ。でも、目標を達成した時は、超楽しいんです。
- 高橋:
- いやー、会長のお話を聞いていると、もうホコリが眩しく見えますね。キラキラしています。