ワークライフバランスインタビュー
使えるものはフルに使い、「よかった探し」で生きていく
第23回
株式会社東レ経営研究所
ダイバーシティ&ワークライフバランス 研究部
研究部長兼主席コンサルタント
渥美 由喜さん
卒業できたのは、女子学生のおかげ。優秀な女性を活用しないのはもったいない
- 渥美:
はい。クオータ制は役員の一定比率を女性にする制度です。ノルウェーでは役員の40%以上をどちらかの性が占めることを法律で義務付けていて、それを満たせなければ上場廃止になります。2008年から施行して、現在ノルウェーの女性役員比率は世界トップです。でも、日本では反対派も多い。優秀な人は現行でもちゃんと抜擢されているので、数値を強制する必要はないという考え方です。役員になる資質がない人まで組み込まれてしまうので、その女性たちにとってもメリットがないという意見を聞きます。男性はもちろん、そうおっしゃる女性も多い。できる女性ほどそうおっしゃる傾向があるように思いますね。
- 高橋:
- それは、同性として、社内で女性の活用に苦心されてきた方なのではないかと思います。
- 渥美:
- それはわかります。でも僕が主張しているクオータ制では、生え抜き社員を役員にするだけでなく、優秀な方が社外取締役を掛け持ちするようなイメージなんです。それだったら可能だと思いませんか? 外部の人が役員に入って、社内を少しかきまわしたほうがいい効果が出ると思うんですよね。
- 高橋:
- それ、私やってみたいです。ベアーズにもそういった社外取締役を入れたいですね。そう、ベアーズの女性役員がもうすぐ出産予定なんですよ。生まれたら育休に入って、1年後に復帰予定です。
- 渥美:
- 執行役員がご出産される。すばらしいですね。
- 高橋:
- その役員はずっと仕事一筋で、面談しても結婚・出産の話が一切出てこなかったんです。だから私が、結婚・出産したいんだったら、こういうプランですればいいんじゃないかという話をしました。今の時代、企業はある程度マネジメントチームのライフプランもデザインしていくべきなんじゃないかと思うんです。
- 渥美:
- そうですね。ワークとライフは、企業側でもパラレルキャリアで考えていかないと、男性も女性も幸せになれないと思います。
- 高橋:
- 渥美さんが提言されているクオータ制というのは、単に「女性を優遇せよ」という話ではなく、女性役員が1~2%という今の悲惨な状況を少しでも改善して、バランスをよくしようということですよね。商品やサービスを享受する側は女性がたくさんいるのに、供給する企業の経営陣に女性がほとんどいないなんて、考えてみればおかしな話です。
- 渥美:
- おっしゃるとおりです。僕がクオータ制を主張するのは、個人の生育体験にもとづいているんですよ。というのも、大学の同級生の女性が本当に優秀だったので、役員が4割女性と言われても、まったく違和感がありません。以前、同窓会でも話していたのですが、「おれたちがテストの時にノートを借りていたのは、みんな女子学生だったよな」と(笑)。彼女たちのおかげで僕らは卒業できているわけです。企業でも優秀な女性が役員になって、会社を成長させ、そのパイの配分に男性もあずかる。このくらいがあるべき姿だと思うんですよね。
- 高橋:
- それはまた、同級生には反発を受けそうな主張ですね(笑)。渥美さんはどういう人がクオータ制の管理職に登用されるといいと思っていらっしゃいますか?例えば、もっと感性でものを言える人が必要だとか。
- 渥美:
- 一言で言うと、発達障がい者のようなタイプをどんどん登用するといいと思っています。
- 高橋:
- なるほど、アスペルガーやADHDなどの方。
- 渥美:
- 日本では発達障がいを、協調性がないとか忘れ物が多いとか、そういった部分でネガティブ評価しますよね。そして、生育環境の中で矯正しようとする。そうすると、いいところが開花しないままになってしまう。もったいないですよね。海外では、発達障がい者の方ばかりの会社すらあるんです。
- 高橋:
へえ、どんな事業をする会社なんですか?
- 渥美:
- 地図などをつくる会社ですね。
- 高橋:
- ああ! 路線や道路などに詳しい方、いらっしゃいますよね。
- 渥美:
- そうそう。アスペルガーの一つのタイプはそういった知識を覚えるのが得意なんです。だから、会社自体もすごく成長している。これは一例ですが、企業は女性だけでなく、いろいろなマイノリティの能力を活かすべきだと思うんです。ただ、現状の最大のマイノリティは女性ですから、女性さえ活躍できない会社は、障がい者はますます活躍できないと思います。
- 高橋:
- なるほど。
- 渥美:
- だから、女性登用といっても、男性以上にバリバリ働こうとする女性ばかり登用しても、意味がない。組織に多面性を持ち込むには、ゆきさんみたいに、美もライフも個人の幸せも追求しているような人を活用すべきなんです。そういった人は感性のアンテナを高く張ることができる。そういうすばらしい女性が僕の周りにはたくさんいます。でも、現状では活躍できていない人が多い。すごくもったいないですよ。
- 高橋:
- 私、企業の中で男女比率をバランスよくするということは、日本全体のデザイニングに通じることだと思うんです。
- 渥美:
- そうですね。日本が国として活性化して、持続的に繁栄するためには、ダイバーシティもクオータ制もワークライフバランスも不可欠だと考えています。僕の考えは基本的に個が先に立っていて、個人がいきいき働けない職場でいい会社はありえないと思っています。結果的に個人が活躍すれば、当然業績は上がるはずなんですよ。
- 高橋:
- このクオータ制、女性側にはどれくらい響いているのでしょうか。