ワークライフバランスインタビュー
使えるものはフルに使い、「よかった探し」で生きていく
第23回
株式会社東レ経営研究所
ダイバーシティ&ワークライフバランス 研究部
研究部長兼主席コンサルタント
渥美 由喜さん
Profile
株式会社東レ経営研究所
ダイバーシティ&ワークライフバランス 研究部
研究部長兼主席コンサルタント
1992年東京大学卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年(株)東レ経営研究所に入社。これまでに国内のワークライフバランス先進企業700社、海外100社を訪問。また、コンサルタントとして、実際に企業の取組推進をサポートしている。プライベートでは7歳と3歳の2児を共働きの妻とともに育てており、2回育児休業を取得。4年前から認知症、統合失調を患っている父の介護(要介護1)に奮闘中。座右の銘は、市民の三面性=家庭人、職業人、地域人。
家事術が学びたくて、自分からベアーズに依頼した
- 高橋:
- 渥美さんにはこのインタビューシリーズの第4回にも出ていただいています。写真を見るとふたりとも若くて、今とは雰囲気が違いますね(笑)。あれから渥美さんご自身の状況も変わられたでしょう。
- 渥美:
- そうですね、当時とはだいぶ状況が変わりました。父が4年前に統合失調症を発症して、家の中はめちゃくちゃ、錯乱して職場にも罵詈雑言の電話をかけてくるような状態だったんです。そこから、お医者様に恵まれて統合失調症は回復したのですが、認知症もあるので、今は要介護1認定を受けています。
- 高橋:
それは大変でしたね……。
- 渥美:
- さらに、介護が軌道にのったころ、次男の病気が判明し、大手術を経験しました。今はだいぶ良くなったので、平日はできるだけ毎日子どもたちをつれて、父のところに顔を出しています。
- 高橋:
- お家は近いんですか?
- 渥美:
- 車で12分くらいなので近いですね。こちらとしては、孫育てを手伝ってもらっているので、介護という意識はありません。介護って当事者の言葉じゃないんですよ。「最近、息子に介護してもらっていて……」なんて本人は言わないでしょう。息子たちが「おじいちゃんありがとう」と言うとき、父が一番うれしそうな顔をするので、そういう瞬間をつくりに行っているという感覚です。
- 高橋:
- できるかぎり、お父様の自立を促すような関わり方をされているんですね。
- 渥美:
- おっしゃるとおりです。こんな状況なので、ヘルパーさんはフル活用しているし、ベアーズさんにも上の子が生まれてすぐ、来てもらっています。堂々と人に頼るということが重要なんですよね。変に壁をつくって「家に入られたくない」などと思ったら、こういったサービスは使えない。父も最初はヘルパーさんを嫌がりましたが、最初になるべく付き添って受け入れやすい状況をつくったら、来るのを喜ぶようになりました。
- 高橋:
- 使えるものはフルに使うと。
- 渥美:
- はい。自分でワークとライフを完璧にやろうとするのは、諦めたほうがいい。100点主義はよくありません。僕は「70点主義」と部下によく言っています。70%の力で80~90%のパフォーマンスを上げることを心がけるべきだと思っているんです。子育ても完璧にやろうとしたら、保育園に預けるたびに心が痛んで、今度は仕事に集中できないですよ。
- 高橋:
- 全部自分でやろうとしないためには、割り切りが必要なんですね。ベアーズを利用してくださるようになったのは、7年前ですか。きっかけは何だったのでしょうか?
- 渥美:
- 当時、妻が産休を終えて復帰するので、僕が育休をとることにしました。だけど、家事も育児も当時の僕にはハードルが高かった。フルにやる前提で妻からレクチャーを受けたんですが、自信がなくて。だから週1回くらいはベアーズさんに来てもらって、ハイレベルな家事術を学びたいと思ったんです。
- 高橋:
- そのきっかけはすごいですよね。ご主人が自発的に家事代行を使いたいと言って奥様が了承する、という事例の先駆けだと思います。普通は逆なんですよ。
- 渥美:
- 共働きで家事代行をお願いしたら、恩恵をうけるのは夫の方じゃないですか? そう思うんだけどなあ。
- 高橋:
- 実際はその通りです(笑)。ベアーズには何を依頼していただいているのでしょうか。
- 渥美:
- 週1回、部屋の中をきれいにしてもらっています。最初はベアーズさんに来ていただくのに、散らかっていたら恥ずかしいと片付けていたのですが、途中で「なんのために来てもらうんだろう」と気づいて(笑)。いまはお任せしています。70点主義の掃除では手がまわらないところまでピカピカにしていただけるので、すごくうれしいですね。子どもたちの教育的にも、いい効果があると思います。
- 高橋:
- いま奥様と、家事や介護の分担はどうされているのでしょうか?
- 渥美:
- 時期によりけりですね。今月は妻が忙しくて、いつ寝ているのかわからないくらいなんですよ。だから僕が全面的に担当しています。ただ、僕は逆立ちしても産めないし、授乳もできないので、総合的には妻にはかなわないと思っています。
- 高橋:
- 渥美さんの奥様は、お会いすると「いかにもキャリアウーマン」という感じではないですよね。力が抜けている方なのに、そんなによく働かれているんですか。
- 渥美:
- 妻は一見すごくおっとりしていますが、芯は強いですね。
- 高橋:
- これからの働く女性は、そういう渥美さんの奥様みたいな人がイメージなのではないかと思うんです。ここで、渥美さんが最近推進していらっしゃる「クオータ制」についてお話いただいてもいいですか。