ワークライフバランスインタビュー

助け、助けられることで「ありがとう」が循環する社会を創る
第25回
国立保健医療科学院 主任研究員
産婦人科医・医学博士・公衆衛生修士
吉田穂波さん
家事を頼むことは、コミュニケーションのきっかけをつくること
- 高橋:
穂波先生は、家事代行サービスを以前から使われているんですよね?- 吉田:
- 長女が生まれた時からですから、もう9年になります。私、声を大にして言いたいんですけど、女性が担当している家事って、本当にたくさんあるんですよ。掃除・洗濯・料理を外部にお任せしたとして、それでも母親のやる仕事はまだまだある。保育園などの提出書類の記入に、歯磨き、お風呂入れ、そこから寝かしつけに2時間かかるかもしれない。だから、親じゃなくてもできることはプロにお任せして、親でなければできないことに注力したほうがいいと思うんです。
- 高橋:
- 家事代行サービスを使うとき、最初は抵抗ありませんでした?
- 吉田:
- 正直ありましたね。家の中のことや子どもの通院の付き添いを他人に頼むなんて……と思っていたんです。でも、母親が「ひとりでなんでもやろうとしないで、人を頼りなさい。貯金を崩してでも人にお願いしてみて」と言ってくれたんですよね。母も共働きでしたから、気持ちがわかったのでしょう。
- 高橋:
- アメリカ留学にも1ヶ月ついてきてくれたというお母様。すごいですよね。
- 吉田:
- その言葉で気持ちがすごく楽になりました。それまで私は、ひとりでがんばれると思っていたんです。受験でも何でも、ひとりでやってきましたから。でも子育てはやっぱりひとりではできないんですよね。それで、勇気を出してお願いしたシッターさんが、ものすごくいい方ばかりだったんです。未知のものには漠然とした恐怖がありますが、来ていただいてしまえば、皆さんあたたかい優しさを持った方だとわかる。そして、私達が助けてもらって喜ぶことで、その方も喜んでくださることに気づきました。
- 高橋:
- 交換ノートで感謝を伝えていた、と本に書かれていましたね。
- 吉田:
- 困ったときに家事をお願いするということは、コミュニケーションのきっかけになるんです。ベアーズさんのお仕事もそうですが、家事をお願いすることは、誰かと出会うことなんですよね。出会いとコミュニケーションと感謝のきっかけづくりをマッチングする事業なんだと思います。
- 高橋:
- ありがとうございます!そんなふうに言っていただけると、こちらもとてもうれしいです。
- 吉田:
- 私、世の中のお母さんは育児のサポートと同じくらい、家事のサポートを求めていると思うんです。子どもをあずけて美容院に行く時間をつくるよりも、仕事から帰ってきたら家事が全部終わっているほうがうれしいはず(笑)。産後の家事のサポートをしてくれる機関は、もっとあっていいと思います。
- 高橋:
- 私も今後、産前・産後ケアセンターを日本にたくさんつくりたいと考えています。産後、お母さんの心をいったんリセットして開放できる場がないと、子育てに対する焦りやイライラが募ってしまいます。
- 吉田:
- 母親の心に余裕がないと、そこから愛情や手間をかけようという気持ちは出てこないんですよね。やっぱり、私は家事も子育ても楽しいのが一番だと思うんです。家事を義務でなく楽しみだと思えるように、アウトソーシングをうまく活用する文化は広まってほしいですね。ベアーズさんみたいなサービスを知るだけで、生き方が変わると思います。
- 高橋:
- 楽をすることは悪いことではないんですよ。楽をした分、人に愛情を向けられればそれでいいんです。
- 吉田:
- 楽をした分、自分の好きなことや強みに注力できるといいですよね。そういう親を見て育つと、子どもも人に頼ろう、ベアーズさんに頼もうと思うでしょう。
- 高橋:
そういう、幸せのつくり方の連鎖をつないでいきたいです。- 吉田:
- 私達の世代でそろそろ、流れを変えたいと思いませんか? いま、看護師の資格を持った方が、全国で61万人くらい主婦をされているんです。家事と仕事の両立が難しいからという理由で。本当にもったいないですよね。
- 高橋:
- 私達、家事代行サービスは、女性が生きやすい社会づくりの可動部隊として、そういう問題の解決もしていきたいと思っています。では、穂波先生はこれからどんなことを目標とされているのか、最後に聞かせてください。
- 吉田:
- 日本で災害時の母子のケアについての仕組みを構築できたら、世界に広めていきたいです。世界でも、災害時に妊産婦さんのシェルターをつくるなどの対応ができている国は非常に少ないんです。東日本大震災を体験した日本だからこそつくれる、母親目線のシステムを、世界に向けて輸出できればいいと思っています。あとは、私はまだまだ仲間を見つけるとか、ネットワークをつくるとか、チームメンバーに仕事を分担するということができていないので、そこを変えていきたいです。将来、起業などで組織がつくれるといいのですが……。
- 高橋:
- いえいえ、こうなったら、お子さんの起業を手伝ってあげたほうがいいですよ。
- 吉田:
- 子どもの起業ですか?
- 高橋:
うちの息子も娘も起業するタイプではないと思うんですけどね(笑)。私はもう、自分のことをやるよりも、彼らの人生を応援してあげることに力を入れるのがいいのかなと思っています。それが自分のチャレンジにもつながったら、より幸せなんじゃないでしょうか。- 吉田:
- いいですね。私も世界に発信するのに加えて、次世代につないでいくことを次のチャレンジにしたいと思います。