日経DUAL創刊編集長 帝塚山学院大学非常勤講師 羽生祥子さん 【その3】

対談
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ワークライフバランスインタビュー

羽生祥子さん

子育てのすばらしさを伝え、出生率アップに貢献したい
          

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日経DUAL創刊編集長
帝塚山学院大学非常勤講師
羽生祥子さん

指の隙間からこぼれそうな幸せを拾い集める。それが子育ての醍醐味

高橋
日経DUALというメディアを立ち上げようと思ったのは、どういうきっかけだったんですか?
羽生
それこそ、妊娠したことですね。8年前です。妊娠して、「ああ、もうダメだ、この仕事はやっていけない」と落ち込んだ時に、思いついた企画です。
高橋
でも実現したのは、半年前ですよね。7年間、あたためていたんだ。
羽生
はい、頭の片隅におきながら。子どもが生まれてさらに思ったのは、会社員って子どもが生まれたうれしさや育んでいく喜びを表現する場がなかなかない、ということ。そういう場をつくりたかったんです。
高橋
日経DUALは、「子どもがいるっていいよね!」という話題のきっかけをつくっているんですね。それは女性だけでなく、男性にも。
羽生
そうなんです。日経DUALは月に約100 本上げる記事の半分以上を、うれしいこと、幸せなこと、愛することが全面に出ている記事にするようにしています。新聞やテレビでは、待機児童の問題など社会的に深刻な課題を扱うことが多い。それはそれで必要です。でもDUALでは、例えば「ただいまー」と帰ってきた時に、子どもが「おかえりー!」と言ってくれて元気になったとか、そういうちょっとした、幸せな気持ちになれる記事を載せていきたい。
高橋
ああ、いいですねえ。
羽生
子育てって会社の決算や保険の還付金みたいに、あるタイミングでどーんと成果が見えるものではないんですよね。ともすると、成人まで育てることや、いい大学、いい会社に入れることのために頑張っちゃい兼ねないんですけど、そうじゃない。指の隙間からこぼれてしまいそうなくらい小さな幸せの積み重ねが、子育ての醍醐味なんだな、って最近しみじみ思います。
高橋
うん、うん。
羽生
例えば、息子がちょっとうまく絵が描けたとか、すごく平凡で小さなことに私もパワーをもらって、「いいね、すごいね、そのままでいいね」って言ってあげられる。それが、子どもたちにとってもいいことなんだろうなと思っています。
高橋
そうですね。
羽生
とはいえ、私は働いているので、いつも一緒にいて子育てをすることは難しい。以前すごく忙しくて上の娘とほとんど会話ができない日々が続いていました。ある朝、保育園につれていく自転車の後ろで、娘の顔は見えないけれど「泣きそうな顔してるんだろうな」っていうのがわかる。。そうしたらやっぱり、「お母さん、きょう早く帰ってきて」って言うんです。でも、仕事で帰れないんですよ。
高橋
つらいですよね……。
羽生
どうしよう、と思ったとき、ふと道の脇に小さな公園が見えました。そこに、コーヒーカップの乗り物があったんです。きゅっと自転車を止めて、「これに一緒に乗ろう!」って言って、娘を乗せてぐるんぐるん回しました。そうしたら、「きゃーー!!」って喜んじゃって。そして、「はー、楽しかった!」って降りてから、「ママ、もういいよ。私、保育園行く」って言ってくれて……ああダメだ、泣いてしまう(そして本当に泣く)。
高橋
もらい泣きしそう。すごくわかります。
羽生
……こういうことだな、って思ったんです。お仕事をされているお母さんは、みんなこういうつらい思いをする場面があるでしょう。でも、振り返ったら確実に、「私はこの子と一緒に過ごした」という瞬間の物語がいくつもたまっているはずなんです。さっきの話なんて本当に、ほんの3分くらいの出来事。でもそういうのをちゃんと記事にしていきたいと思います。喜怒哀楽をすべて詰め込んで。
高橋
それは、一生の宝ものですよね。私も最近娘から突然、「みんないい人、みんなの幸せが私の幸せ」ってLINEのメッセージが来たんですよ。「そうだね、でもあなたがそうやってまわりのことを美しく見られるのは、あなたの心が美しいからだよ。だからその心をいつまで大事にしようね」と返したら、「ママがわたしのママでよかった」って返事がきたんです。
羽生
じ~んときますね。 娘さんはおいくつですか?
高橋
15歳です。でもこれって、私の愛情を察して育ってくれたからじゃないかと思うんですよね。やっぱり、お母さんというのは子どもの人生をもっとも動かす人だと思います。だから、小さくまとまったり、無理していいお母さんであろうとしちゃいけない。子どもたちが見る世界は、私達が見る世界、私達が伝える世界なんです。一緒にいられる時間が少なくなってしまうけれど、がむしゃらに働いていることは悪いことじゃないと思います。そうやってがんばっている姿を見せることで、子どもは何かの折に、「自分の人生を動かしてくれたのは母だったな」と思ってくれるんじゃないでしょうか。
羽生
なんていい言葉! 私はキャリアもガーターから始まっているし、子育ても穴だらけ。でもDUALの読者には、そういうパーフェクトではない人がつくっているということで、親近感をもってもらえたらいいなと思います(笑)。
高橋
そんな、祥子さんのキャリアは「ガーター」なんかじゃないですよ。私は最近、つらいことがある人生のほうがステキだって思うんです。
羽生
本当に?楽しいことよりも?
高橋
はい。決して強がりとかではなくて、思い返してみると、人生のうちで記憶に残っているのってやっぱり「あの時大変だったな」ってことなんですよね。それらのことは、振り返ると明るく語れるストーリーになるんです。だから、ただなんとなく楽しくて語れることがない人生より、すごく大変なことを乗り越えて、人と絆を深めてっていう人生のほうがいいなと思います。
羽生
なるほど、そうかもしれませんね。私、飢えてなくて、やりたい仕事にチャレンジできて、かわいい子どもが2人いて……という状況がいかに幸せか、1日に1回はかみしめているんです。
高橋
いまは、天ぷらの水もありますしね(笑)。
羽生
そうそう(笑)。そういう幸せを感じられるのは、やっぱり、就職できなくてつらかった体験などがあったからかもしれませんね。
高橋
じゃあ、今後日経DUALでこんなことをしていきたいという展望はありますか?
羽生
日経DUALによって、仕事をしながら子育てをすることが、夫婦ともに普通にできる社会にしたいと思っています。そしてその結果、日本の出生率が上がればいいな、と思っています。。私、「少子化の進む日本において」という枕詞が嫌いなんです。それ、誰が決めたんですか、と思う。
高橋
10年くらいずっと変わらないですよね。
羽生
きっと「子ども産むのって大変そうだな」「二人目がほしいけど、育てるの大変かも」と思って、先延ばしにしている人は多いのではないでしょうか。そうじゃなくて、読んだ人が「子どもを産んで育てるっていいことだよね」と思い、一歩を踏み出してくれるような媒体にしたいです。
高橋
私も子どもを産むすばらしさや、育てる楽しさをもっと広めていきたいと思っています。しかも、自分の子だけでなく、地域の子どもや、ひいては国の子どもにまで視野を広げて、みんなが新しい命を歓迎して育んでいく世界をつくりたいんですよね。
羽生
本当にそのとおりですね。ゆきさん、一緒にがんばっていきましょう!
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