パパ料理研究家 株式会社ビストロパパ代表取締役 滝村雅晴さん【その2】

対談
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ワークライフバランスインタビュー

滝村雅晴さん

思いやりを隠し味にした“パパ料理”を召し上がれ

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パパ料理研究家
株式会社ビストロパパ代表取締役 / 大正大学客員教授
内閣府食育推進会議専門委員 / 日本パパ料理協会会長飯士
滝村 雅晴さん

「おいしい」の先には「これが食べたかった!」がある

滝村
ある日、会社の人に「滝村さんの料理、おいしいらしいですね。食べに行きたいです」と言われたので、家に招いてたくさんの料理をつくりました。そのころの僕は、片付けを一切しなかったんです。僕の意識としては、それまで料理をしなかった自分が料理をするようになったので、それだけで家庭に貢献しているというか、「おれ、偉いでしょ」という気持ちだったんです。
高橋
すでに事件のにおいがしますね(笑)。
滝村
料理をつくった日は、洗い物くらい妻がやってもいいじゃんと、いうスタンスで毎回つくっていました。その日も友達をいっぱい呼んでパーティーして、ものすごい量の洗い物をそのままにして、自分は疲れて寝たんですよ。そして、翌日「楽しかったね」って妻にいったら、めっちゃ怒ってるんです。
高橋
そりゃ怒りますよ(笑)。
滝村
「どうしたの?」って聞いても黙ったまま。そして見回したら、キッチンもダイニングもピカピカなんです。どうやら、彼女がひとりで3時くらいまでかかって片付けをしたらしい。それに対して僕はありがとうも言わないし、そもそもそれが当たり前だと思っている。そこではっと気づいたんです。「僕がつくっていたのは、男の趣味料理だった」と。完全に自分のためだった。それじゃ家族を幸せにできない。
高橋
現に、奥さんをそこで不幸にしてたわけですからね(笑)。
滝村
はい(笑)。僕がつくるべきは、妻や子どもたちのためにつくる家庭料理だと気づいて、“パパ料理”というコンセプトが浮かんだんです。それからパパ料理研究家を名乗りだしました。
高橋
キッチンを片付けるところまでが、パパ料理なんだと。気づいてから、料理のつくり方はどう変わりました?
滝村
つくり方というか、つくる料理のチョイスが変わりました。
高橋
ああ、家族のコンディションを考えたり、続けて何か同じもの食べさせたらかわいそうかなと思ったりして。
滝村
そのとおりです。気づく前には、レストランみたいな料理がつくりたいわけだから、イタリアン、中華、イタリアン、中華、エスニック……という感じでつくってたんですよ(笑)。
高橋
ちょっと重たいですね(笑)。
滝村
それが、「家族は何が食べたいかな」ということを考えてつくるようになった。すると次第に、妻に言われる言葉が変わってきたんですよ。今までは単に「おいしい」だったんです。それが、「今日のこれ、食べたかった味だ」って言われたんですよ。おいしいの上に、「食べたかった味」って言葉があるんだと。そう言われたとき、ものすごくうれしかったんです。
高橋
奥さんの気持ちを汲めるようになったんですね。
滝村
どれだけおいしい高級料理をつくろうが、そのときの気分じゃなければ、本当においしく食べてもらうことはできないんですよね。それがわかりました。
高橋
だんだん喜びや幸せといったところに、パパ料理が突入してきましたね。これはやはり得意の妄想力で、食べている人の喜んでいる姿を妄想するんですか?
滝村
妄想というか……わかりやすい言葉でいうと、自分で言うのは照れくさいですが、やっぱり「思いやり」だと思うんです。パパ料理というのは、言い換えると思いやり料理。それまでの僕は思いやりがまったくありませんでした。自分のことしか考えていなかった。
高橋
いやいや、そんなことないでしょう。
滝村
それがあるんですよ。前職で働いてたときの自分を振り返るとひどいなあ、と思います。昼の11時から会議をするとします。僕は会議前にサンドイッチを食べておくんですよ。すると12時になっても僕はお腹減らない。でも食べてない人はお腹すきますよね。それにも構わず、僕は減ってないからってずっと会議をやリ続けるんですよ。あと、みんなが帰ろうと思っている22時くらいに、「ちょっと打ち合わせしよう」って、スタッフを平気で集める。それは僕がその日、その仕事を終わらせたいから。完全に自分の都合です。本当に当時のスタッフには謝りたいですね。
高橋
なるほど……(笑)。
滝村
ということを、誰かに言われたんじゃなく自分で気づくと、もう忘れないんです。
男って「お前自分勝手だから気をつけろよ」って言われると、半分自覚しているので、意固地になる。だからじっと本人が気づくまで、こちら側から情報発信し続けるのがいいのかなと思っています。なかなか男って、めんどくさい生き物なんですよ(笑)。
高橋
世のお父さん方に、どういうことに気づいてほしいですか?
滝村
例えば、ずっと家族と一緒にごはんを食べられるわけではないということ。それがどんなに幸せなことか、気づいた時にはもう遅い、なんてことにならないようにしたいですよね。1回1回を大事にしてほしいし、できれば自分で料理をしてみてほしいと思います。
高橋
気づいてもらうのには、やっぱり料理をきっかけにするのいいんですか?
滝村
そうですね。料理にはいくつか種類があると思うんですけど、自分が作って食べる料理は「自炊」ですよね。男がよくやる料理っていうのは、自分が食べたいものを自分の都合でつくって食べる「趣味の料理」、つまり自分軸なんです。で、僕が伝えている「パパ料理」は、自分のお腹がへっていなくても、妻や子どもたちのお腹がへったことに気づいてつくるお父さんの家庭料理、つまり軸が他人なんです。利他な料理をすることで、自分じゃない誰かが腹がへっている、困っている、悩んでいる、そしてその誰かを思いやる、そういう視点をお父さんが見つけることになる。だから、僕は料理がいいと思います。
高橋
それは、お母さんは自然にやってることだったりしますもんね。お父さんにはきっかけが必要なんですね。
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