パパ料理研究家 株式会社ビストロパパ代表取締役 滝村雅晴さん【その3】

対談
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ワークライフバランスインタビュー

滝村雅晴さん

思いやりを隠し味にした“パパ料理”を召し上がれ

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パパ料理研究家
株式会社ビストロパパ代表取締役 / 大正大学客員教授
内閣府食育推進会議専門委員 / 日本パパ料理協会会長飯士
滝村 雅晴さん

いま考えるべきは、ワークライフ&ソーシャルバランス

高橋
そうして、思いやりにあふれた「パパ料理」に目覚めて、お仕事をやめて、パパ料理研究家として独立された。エプロン、とてもよくお似合いですね。
滝村
これはパパ料理研究家になる前から、気に入って10年使い続けていた京都の一澤信三郎帆布というブランドのものです。起業してまっさきにやろうと思ったのが、一澤信三郎帆布に、父の日にプレゼントできるような特別なエプロンをつくってもらうことでした。そして、企画書を書いて飛び込みで提案しに行ったんです。でも、そのタイミングではオーナーがいなかったので、レジのところにいた伊藤さんという人に、「代わりに僕のプレゼン聞いてください!」とプレゼンをしました。そして、「よかったらこれ、社長さんに渡しておいてください」と企画書を託して、八坂神社にお参りしに行ったんです。
高橋
縁結びの神様ですもんね(笑)。
滝村
そうです(笑)。そうしたら、30分くらいしたら電話かかってきたんですよ。社長の奥さんが「いま主人が帰ってきたんで、戻ってきはりますか」と言わはる。急いで店に戻ったら、信三郎社長と奥さんのえみさんと担当の小川さんという女性が並んで待っててくださったので、またプレゼンしたんですよ。プレゼンが終わると、信三郎社長が一澤信三郎帆布のタグの上に指を置いて、「じゃあ、この上に“ビストロパパ”ってつけはりますか」って。僕の話を1回聞いただけで、そう言ってくれたんです。
高橋
すごいですね!感動したでしょう。
滝村
感動しましたねえ。僕が、「父の日にネクタイではなくてエプロンをプレゼントする文化をつくりたいんです!そのために僕は14年勤めた会社をやめて、会社を立ち上げたんです!」と言ったら、信三郎社長が、「いやあ責任重大やなーって。ぱぱず be アンビシャスやなあ」と。
高橋
ビストロパパの座右の銘は、そこから生まれたんですね!
滝村
そうなんです。こんなに心強いことはありませんでした。いまでも、一澤信三郎帆布を卸して販売しているのは、僕のところだけなんです。これはぜひ、全国のパパに使ってもらいたいなと思っています。
高橋
滝村さんは、ワークライフバランスについてどう思われますか?
滝村
僕はワークライフバランスに、もうひとつプラスするべきだと思ってるんです。それは、ソーシャル。仕事と家庭の調和の先に、地域と社会がある。子どもができて初めて気がついたのですが、地域や社会にコミットして、世の中のために時間を割いているお父さんやお母さんたちがいるからこそ、町がきれいになったり、子どもたちが安心して学校に通えたりしてるんですよね。全部税金で賄われてたり、営利企業がやってたりするわけではない。だから、僕はワークライフ&ソーシャルバランスだと思っています。
高橋
ワークライフ&ソーシャルバランス。すてきな言葉ですね。
滝村
ソーシャルという場に関わると、お金をもらう仕事と家庭ですることのほかに、地域社会で何ができるんだと考えるようになります。1週間のなかの1時間でもいい。それを社会の活動にあてることで、価値観が劇的に変わるかもしれない。家庭や会社で気づけなかったことが、どんどん玉突き的に気づけるようになって、ふと振り返った時にはそれまでと違う景色を見えるようになると思います。僕はそれを経験したので、世の中のパパたちにも、そういうスイッチがどこかで入るようなきっかけを提供したいと思っています。
高橋
そこに気づける滝村さんがすばらしいですね。いま、ソーシャルな場で具体的にやっていることはなんですか?
滝村
次の年度で3年目になるのですが、3年生の次女が通う小学校のPTA会長をしています。この3年目は、ぜったいに会長をやりたいと思っていました。なぜかというと、亡くなった長女の優梨香が今でも元気に通学していたら、来年6年生なんです。僕をパパ料理に導いてくれた長女の優梨香は、今から3年前に8歳8ヶ月で天国にいってしまいました。次の年度でPTA会長を務めることで、優梨香の友達と一緒に卒業式に出られるんです。
高橋
娘さんのことはうかがっていましたが、そういった思いでPTA会長をされていたんですね……。
滝村
卒業式は優梨香もきっとどこかにいてくれてると思いますが、僕も実際に参加して、みんなにおめでとうって言いながら、小学校生活の最後に優梨香のお父さんとして感謝の気持ちを伝えたいなって。僕はいまでも健康で元気なので、優梨香の仲の良い友達が元気で幸せに学校に通えるように、PTAの会長を務めようと思ったんです。
高橋
本当に、ワークライフ&ソーシャルバランスですね。
滝村
ぜんぶ優梨香が教えてくれているな、と思います。彼女が闘病中に一生懸命描いてくれた絵が、僕がいま着ているエプロンにプリントしてあって、Yurika Takimuraというクレジットも入っている。このエプロンをしてるときは、いつも一緒に仕事してるんです。彼女は日本で唯一の、パパ料理研究家の娘に生まれてきた。
それは「パパ、それをみんなに広めてね」っていうことだなと思っています。
高橋
それが雅晴さんの使命なんですね。
滝村
娘は8歳8ヶ月しか生きられなかったけれど、僕はもう十分生きました。これからの人生は、世の中のために使いたいと思っています。僕がいまひとつ言い切れるのは、大好きな家族や仲間と一緒に食卓を囲む、それが真の幸せだということです。食べることは生きること。食べることを幸せに思える人達が増えるっていうのは、豊かな人生を送る人が増えることだと思います。そんな人達が増え、思いやりのこもった料理をつくり、周りの人たちも幸せになる。そんな世界を妄想して、僕はパパ料理を広めているんです。
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