ファンレターから始まった、家事のぬくもりを語る時間【『カフネ』座談会連載第1弾】

家事の悩み

2025年年末、ベアーズ本社にて、本屋大賞2025受賞作『カフネ』著者・阿部暁子さんをお迎えし、特別座談会を開催しました。

『カフネ』は、家事代行で働く薫子とせつなの姿を通して、「家事のぬくもりが人を生き直させる力になる」ことを描いた物語です。“カフネ”とは、ポルトガル語で「愛しい人の髪に指を通す仕草」。その静かなやさしさが、作品全体に息づいています。

座談会の実現は、一通のファンレターから始まりました。
広報室長の服部祥子が『カフネ』を読み、心を揺さぶられ、便箋10枚にわたり想いを綴って阿部さんへお送りしたところ、阿部さんから丁寧な直筆のお返事をいただきました。互いの言葉がリレーのように渡り、座談会へと結実したのです。

左:ベアーズ広報服部祥子・右:『カフネ』著者阿部暁子さん

座談会の登壇者は、阿部暁子さん、ベアーズ創業者・髙橋ゆき、そして服部の三名。
服部は、読後の率直な気持ちとして「登場人物に自分とお客様が重なり、涙が止まらなかった」と語りました。服部自身、子育てと仕事と家事に押しつぶされそうになった時期があり、「家事ができないことへの罪悪感」に苦しんだ経験があります。『カフネ』が描く“助けを求められない人の痛み”は、過去の自分であり、そして今、ベアーズがお会いする多くのお客様の姿でもありました。

阿部さんは、執筆の背景を静かに打ち明けてくださいました。
「コロナ禍で取材ができないまま書き始めたが、生きていくことの重さを突きつけられる中で、“生活”を書かずにはいられなかった」と。家事は「できて当たり前」とされる一方、心や体が弱ったとき、最初に崩れてしまいやすい営みでもあります。だからこそ、「立ち行かなくなる誰かが、もう一度生きる力を取り戻す物語を届けたかった」とお話しくださいました。

右:ベアーズ副社長 髙橋ゆき

髙橋はこの言葉に深く頷き、創業の原点を重ねて語りました。
1995年、香港での子育て。頼れる人がいない異国の地で、フィリピン人メイドのスーザンに支えられた経験が、「頼ることは恥ではなく、人生を取り戻すための手段なのだ」と教えてくれたこと。
そして1999年、日本に“家事代行”という言葉すらなかった時代に、夫と二人でベアーズを立ち上げた理由はただ一つ、「誰もが気軽に家事を頼める社会を創りたい」という願いだったということ。

私たちは創業以来、家事を“作業”としてではなく、“暮らしと尊厳を守る営み”として捉えてきました。
温かいご飯、整った部屋、ほんの少しの余白。それらは人の心を立て直し、もう一度生きる力、誰かを愛する力を与えてくれます。
『カフネ』の中に繰り返し現れる「食べることは生きること」という言葉は、ベアーズの現場が長年信じてきた真実そのものでした。

座談会の最後、髙橋はこうまとめました。
「家事は、人の尊厳と暮らしを支える希望です。“助けること”は“助けられること”でもあり、そこには幸せの循環があります。」
静かな拍手の中、フィクションと現実が、互いを照らし合うような時間となりました。

左から:ベアーズ広報服部祥子・『カフネ』著者阿部暁子さん:ベアーズ副社長髙橋ゆき
(※写真はすべて講談社提供)

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